cotoblog

ミスチル「It's a wonderful world」と「Dear wonderful world」の違いから分かる桜井さんの凄さ

ミスチル「It's a wonderful world」と「Dear wonderful world」の違いから分かる桜井さんの凄さ

IT’S A WONDERFUL WORLD

アルバム「IT'S A WONDERFUL WORLD」の最後の楽曲として収録されている「It's a wonderful world」と、アルバム3曲目に収録されている「Dear wonderful world」は、同一アルバムには珍しくほぼ同じメロディと歌詞になります。
そこで、それらの楽曲が制作された経緯と両者の違い、さらには違いから分かる表現、思惑について整理してみました。

楽曲制作の経緯

「It's a wonderful world」はアルバム制作当初にはない楽曲で、アルバムはその前曲「優しい歌」で締め括る予定でした。
では「It's a wonderful world」は、どのような過程で制作されるに至ったのでしょうか。
それにはメロディと歌詞がほぼ同じで、同アルバム3曲目に収録されている「Dear wonderful world」が深く関連してます。

「Dear wonderful world」との関連性

3曲目に収録されている「Dear wonderful world」は、アルバム制作当初から存在していた楽曲で、当初「醜くも美しい世界」という曲名を桜井さんが付けました。
そこでアルバム制作が進むにつれて、JENさんが「Dear wonderful world」という曲名にして、さらにアルバムのタイトルを「It's a wonderful world」にしてはどうかという提案をされたことをきっかけに、桜井さんはこのアルバムで、「醜くも美しい世界」というプラスマイナスの世界からポジティブな世界を表現するべきだと考えたようです。
さらにそのことから端を発して、桜井さんはこのアルバムで最後に伝えたいメッセージがあると考え、「Dear wonderful world」にメロディと歌詞を付け加えるかたちで、「It's a wonderful world」を制作しました。
その付け加えられたメロディと歌詞こそが大サビの部分となります。
※ちなみに桜井さんは、ミスチルがプラスマイナスの世界を表現した楽曲として「ALIVE」を挙げられました。
まさしく「夢も希望もないけど荒野に花は咲く」の歌詞がそれを象徴します。

ビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」との関連性

前述したとおり「It's a wonderful world」と「Dear wonderful world」の歌詞は大サビの有無を除けば、ほぼ同じです。
ミスチルの歴代アルバムで、歌詞とメロディがほぼ同じ楽曲を2つ収録してるのは今のところ「IT'S A WONDERFUL WORLD」のみとなります。
この試みはビートルズのアルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」に少なからず影響を受けたのではないでしょうか。
アルバム「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」では1曲目にアルバムタイトルと同一の「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」が収録されて、アルバムの最後から2曲目に「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band (Reprise)」という楽曲が収録されています。
それら2つの楽曲はメロディやテンポこそ違いますが、楽曲が持つニュアンスはほぼ同じです。
ビートルズ、ミスチルのそれらのアルバムで言えることは、コンセプチャル・アルバムとしてアルバム全体を1つのストーリーとして繋げて聴けるということです。
それはアルバム「深海」でも同様のことが「Dive」「シーラカンス」「深海」で言えます。

余談ですが、「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」のイントロに入る前のSEは、ミスチルのアルバム「Atomic Heart」に収録されている「ラブ コネクション」の、同じくイントロに入る前のSEに似てますね。

「It's a wonderful world」と「Dear wonderful world」の歌詞の違い

「It's a wonderful world」と「Dear wonderful world」の歌詞は大サビの有無を除けば、ほぼ同じと書きましたが、逆に違う箇所はどこでしょうか。
それを紐解くと面白いことが分かります。

Dear wonderful world

Oh baby 通り雨が上がったら
鼻歌でも歌って歩こう
この醜くも美しい世界で

Oh baby 通り雨が上がるまで
カプチーノでも頼んで待とうか?
この醜くも美しい世界で

It's a wonderful world

Oh baby 通り雨が上がるまで
カプチーノでも頼んで待とうか?
この醜くも美しい世界で

Oh baby 通り雨が上がったら
鼻歌でも歌って歩こう
この醜くも美しい世界で

2つの楽曲の歌詞を比較すると、曲の最初と最後の歌詞をあべこべにしてます。
そこで大きな違いとして「通り雨が上がるまで」と「通り雨が上がったら」であると考えます。
「Dear wonderful world」はアルバム序盤の3曲目の楽曲として、これからアルバムが始まる。
それは今は通り雨が降っていて止む気配はないけれど「上がるまで」これからアルバムで表現する男女関係、人生のいろいろを聴きながら待機していよう。と受け取れます。
一方で「It's a wonderful world」ではアルバムを聴き終えて、通り雨もそろそろ止みそうだという観測から「上がったら」また歩き出そうと受け取れます。
この「まで」「たら」だけで、アルバムを覆うストーリーを紡ぐことができるのではないでしょうか。
さらに歌詞を比較します。

Dear wonderful world

無駄なことなど
きっと何ひとつとしてないさ
君の身の上話のひとつでも聞かせてよ

It's a wonderful world

無駄なものなど
きっと何ひとつとしてないさ
突然 訪れる鈍い悲しみであっても

「Dear wonderful world」では「君の身の上話」を聞かせて欲しいと歌ってます。
これは前述した観点と同じで、「Dear wonderful world」はアルバム3曲目で、この後に続く楽曲はその身の上話が成すストーリーでもあると表現してるようです。
一方で「It's a wonderful world」では突然訪れる悲しみとして不穏な空気感を持って展開していきます。
そして、その展開で綴る歌詞こそ桜井さんがこのアルバムの最後に付け足したいと願ったメッセージとなります。

「It's a wonderful world」の大サビを紐解く

桜井さんがこのアルバムの最後に付け足したいと願ったメッセージこそ、大サビの歌詞になります。

忘れないで君のことを
僕は必要としていて
同じようにそれ以上に
想ってる人もいる
あなどらないで僕らにはまだ
やれることがある
手遅れじゃない まだ間に合うさ
この世界は今日も美しい
そうだ美しい

歌詞については僕がここで書かなくても、多くの聴き手が「素晴らしい」と思う内容なのではないでしょうか。
この歌詞こそ桜井さんが伝えたかったメッセージです。
ところが、音楽ではその歌詞にメロディとコードを付けなければならず、それこそが歌詞と同等、またはそれ以上に素晴らしいと感じます。
楽曲の序盤で「鼻歌でも歌って歩こう」と歌うように、メロディと歌い方は抑え気味で、まるで鼻歌で口ずさんでるようです。
それが大サビで、そのタガが外れて最高潮にメロディが高揚していき「この世界は今日も美しい そうだ美しい」と声高らかに、メロディを伸ばしながら聴き手に訴えかけます。
単に付け足したいメッセージがあるからといって、音楽的なメロディとコードを付けられるかは因果関係がありません。
桜井さんの作曲家としての真髄が垣間見えるのではないでしょうか。

歌詞の「世界」について

「この世界は今日も美しい」と歌っているその「世界」は、アルバム「IT'S A WONDERFUL WORLD」が発売された2002年5月10日前に起きた、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロが関わってるのではないでしょうか。
その「世界」とは「CENTER OF UNIVERSE」で歌った己の世界であると捉えることもできますが、9.11で激変した世界そのものを指してると。
あるいはアルバムの各楽曲が織りなす、男女関係の世界を指してると考えることもできます。

最後に

いかがでしたでしょうか。
音楽家にとってアルバムをどう締め括るかは毎度頭を悩ましそうだと、素人ながらに感じます。
最後の楽曲で何を伝えたいか、さらにはその伝え方としてメロディは?コード進行は?と考えると、それら全ての要素が揃った楽曲を制作するのは至難の業です。
それでも桜井さんは「It's a wonderful world」で、思わぬJENさんからの提案を機に表現したことは感動の他ないのではないでしょうか。
それら一連の出来事を目の当たりにしたメンバーはどう感じたのか、想像するだけで鳥肌が立ちます。